心が住む場所が家です。極地で人間が最も苦しむのは、習慣を奪われること。
村上 祐資
Yusuke Murakami
極地建築家/特定非営利活動法人フィールドアシスタント代表
1978年生まれ。宇宙や南極、ヒマラヤなど極限環境下における建築や暮らし方を研究し、様々な極地の生活を踏査してきた極地建築家。2008~10年には第50次日本南極地域観測隊に越冬隊員として参加。2017年には米国火星協会が主催する模擬火星有人探査計画(Mars160)の副隊長として、計160日間に及ぶ「火星生活実験」にも参加した。人間が生きることと建築の係わりをひも解く”Inter-Survival”をテーマにした活動は、ワークショップやインスタレーション、執筆活動など多岐に渡る。
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これは僕が設計したプラネタリウム用ドームテントです。ベースはネパールで起きた大震災をきっかけに開発した仮設テントなんですが、それをプラネタリウム用に進化させたもので、場所はカンボジアです。現地で調達できる水道管といろんな材料を使って、カンボジアのみなさんと手作りで組み上げます。これをやると何が分かるかというと、チームの「くせ」が分かるんです。宇宙や極地でもチームプレイですが、別々の人に全く同じような作業をしてもらっても、必ずカンボジアの人たちなりの「仕事っぷり」が現れます。作業を通して、いい感じに調和がとれていくのが目の当たりにできます。
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これは宇宙服を子どもと親に着せて作業をしてもらっているんですが、もちろん偽物の模擬宇宙服です。閉鎖空間での宇宙生活実験を、僕らは実は日本で既に何回かやっているんですけれども、そのときの写真です。閉じ込められて生活していると、人は不思議とその人のそれぞれの違うところに目がいくんです。自分と他者の違うところ。チームとしてすごく問題も起きます。その逆で宇宙服を着ると、今度は不思議と違いではなくて、それぞれの似ているところを探すようになります。視界だとか音だとかいろんなものが、普段と全く異なる制約がつく宇宙服を着た作業になりますから、人は孤独になることを嫌います。そうなると、人は似ているところを探していくんですね。チームをつくるときに、これが結構大事になります。宇宙服を着た作業を、何回やらせるかとか、誰と誰を行かせるということの采配が、その後のチームビルディングに影響していきます。
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これは160日間の火星模擬実験の時に食べていた宇宙食です。上のスペースフードと書いてあるものはロシアが開発した宇宙食で、下のものが日本の南極観測隊で作ったフリーズドライの食事なんです。上のチューブの中には、ボルシチとか入っていて、種類もたくさんあります。これをチューチュー吸うわけです。盛り付けも何もあったもんじゃないですが、でも、これがクルーには人気だった。これを食べながら、「今すごく私たちは宇宙っぽいよね!」なんて言いながら喜んでました。だけど、本当の宇宙飛行士に聞くと違います。長く宇宙に住んでいるときに、本当に必要なものは、「宇宙っぽい」ことではなくて、食べ物の食感とか色とか誰が作ってくれたかというところがすごく大事です。日本の南極観測隊が宇宙食を作ると、そういう本物の長期生活のノウハウを持っていますから、下のような食事になるのです。これから宇宙旅行時代がやってきますけど、そのときはどちらが人気になるんでしょうね。